知名定男さんが引退しました

satoshi@宜野湾

2012年03月27日 22:39



3月25日の芸歴55周年記念リサイタルで知名定男さんが、歌い手としての引退を発表しました。

長い間、お疲れさまでした。

今後は、後輩の指導やプロデュースに専念されます。
以下、『沖縄タイムス』2012年3月27日より転載

 「一曲も歌い切れない。こんな不作法なステージになってしまい、すみません」。知名定男が泣いた。25日、沖縄市民会館で開かれた芸歴55周年記念リサイタル「島唄百景」。好きな酒も断って臨んだ、歌い手として最後の舞台だった。「最後の舞台だというのに、神様は冷たかったなあ」。本番終了後の楽屋、じっと中空を見詰め、悔しさをにじませながらつぶやいた。

 冒頭の口上で引退を発表した後、ゲスト演目を挟んで再登場した知名。客の注目を浴びた1曲目は「南洋小唄」。いったん歌いだすが、後が続かない。「ぬーが、あんすかやんでぃとーるやー(どうして、こんなに変かなあ)」とユーモアたっぷりに中断する。「55年はあっという間。何かこう『やみんなよー(やめるなよ)』とか『やーから歌とぅいねー、ぬーぬぬくいが(お前から歌を取ったら何が残るんだ)』と、先輩方が言っているみたいだ」

 だが休憩を挟んでも、歌声は戻らなかった。ゲストの宮沢和史や大城美佐子の歌、舞踊などを挟んでのフィナーレ。知名の伴奏で松田須之吉、徳原清文、吉田康子らが次々と歌う。息子の定人が公演最後の曲「別れの煙」を歌っている途中で、知名の目に涙があふれ始めた。

 「リサイタルといいながら、お客さんを満足させられなかった。歌えない自分が悔しくて、情けなくて…」

 島唄の魅力に目覚めた30代からこだわり続けた情け歌を、「今日は後のことを考えず思う存分歌うつもりだった。最高の舞台にするはずだったのに」。

 それでも客席は温かかった。親子そろって涙で声が出なくなると、自然と会場から歌声が聞こえてきた。

 「お客さんは本当は納得してないですよ。それでも優しく自分を送ってくれた。その気持ちに甘えず、今後は新しい曲作りや後輩の育成に力を尽くしたい」

 今日歌えなかった分、また歌いませんか。そう尋ねた。だが答えははっきりしていた。「二度と歌うことはない。皆の前であんなにはっきり宣言したんだから」

 知名の55年は、島唄の新しい世界を切り開いた55年だった。幕が下りた後、いつまでも拍手は続いた。(玉城淳)


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